典型的な50肩で、肩の周りの皮膚が発赤していた。風が当たって
も痛いという。以前は、鍼は嫌だといっていたのだが、もうそんなこ
とは言っていられない。一日中痛く、安眠できないという。不眠が続
くと症状が悪化するので、痛みを抑えねばならない。前回も同じよう
な処置をしたのであるが、効果は、2日で消えたという。今がいちば
ん炎症がひどい時期であるので、やむを得ないかと思う。写真は、治
療の初めに行った置鍼を示している。10分ほどこのままにしておい
た。使用鍼は寸6および寸3の4番であるが、仮に1番鍼でも効果は
同じである。
 その後、手首を持って、左右上下に2~3センチずつ動かした。痛
み具合を聞きながら、徐々に移動量を増していく。最終的には移動量
は10センチ程度になった。つまり直径20センチの円を描けるよう
になった。途中、刺激が強いと判断したら、鍼を数ミリ程度抜いて同
じ運動を繰り返した。円を描く途中で、ごく軽い牽引も行った。これ
に10分くらい要した。
 次に抜鍼して、軽くマッサージをした。この時点で、筋の緊張はか
なり和らいでおり、本人も痛みが軽くなったことを自覚した。さらに
触診して圧痛点を見つけだし、施鍼とマッサージを繰り返す。
 最終的には、座ってもらい、手を後ろに回してもらう。当然、身体
の横くらいまでしか来ない。そのとき、運動を阻害している筋を触診
して見つけだし(この患者の場合は烏口腕筋)、その最圧痛点に置鍼
する。施鍼時には、当然、脱力してもらう。鍼の痛みを感じなくなっ
たら、痛み始めるところまで自動運動してもらう。決して痛み始めの
感覚を超えないように強く指示しておくことが必用である。これを繰
り返す。つまり、鍼の痛みを感じない「無痛位置」から痛みを感じる
「発痛位置」までの運動を繰り返してもらうのである。そうすると、
発痛位置が一回の運動ごとに移動していく。ほとんどの患者は、これ
に驚いてしまい、そのうちやや無理に動かそうとするようになる。そ
のときに抜鍼して、再度、軽く動かすように指示し、無痛状態での可
動範囲が拡大していることを確認する。
 この治療法は、即効性がある。問題は治療の効果がどの程度続くか
である。効果を持続させるためには、施灸が望ましい。この患者の場
合は、とりあえず合谷と手の三里に5壮ずつ知熱灸をした。これでは
不足しているのであるが、治療時間の関係もあってこの2カ所にとど
めた。病院からもらっている痛み止めなどは、医師の指示通りに使っ
てもらう。とにかく、痛みによる不眠を解消するのが50肩の治療の
最初の目的である。
 この治療を体力の虚弱な人に行うには、治療量を減弱する必用があ
る。また、リウマチなどの自己免疫性疾患を持っているものには、原
則として禁忌である。基本的に、普通かそれ以上の体力を持つ人のた
めの治療法である。



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