主訴は腰痛であった。姿勢は前屈みとなり、足先をすらせて歩いていた。
老人特有の歩き方である。この症状は、治療をすればかなり改善する。ただ
し一ヶ月程度でもとに戻る。この女性に対しては、この一年で20回治療を
している。一週間に一度程度のペースで治療をすれば安定した状態を保てる
のであるが、少し良くなると来なくなり、どうしようもなくなってから治療
に来る。あまり効率の良い治療とは言えないが、治療に来ていない間は、老
人会やらゲートボールやら、いろいろと社交的になっているようで、それは
それで良いのかも知れない。かなりの肥満で、減量の必用があるが、本人は
さっぱり頓着がない。
尿漏れで悩んでいたと聞かされたのは、ついこの間のことである。それが
治ったというのである。さてどの鍼が効いたのであろうかと考えて見ると、
やはり、第5腰椎両側の、2寸5分、6番の鍼が効いたのであろうと思う。
2寸5分の鍼が2寸ほど入ったとき、「ああ、そこじゃ、そこじゃ、いつま
でも鍼で揉んでいて欲しい」という。「鍼で揉む」というのは、言い得て妙
である。私がしていることを、ぴたりと言葉で表現してくれている。これが
効いているのだと思う。環椎後頭関節の鍼も、効いていると思う。
尿漏れは半年ほど前に治っていて、今ではまったく心配が無いという。こ
れは、そういう悩みがあるということを聞かされていなかったので、予期し
ていない効果であった。
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